<辻潤 『ふもれすく』(青空文庫)>:1923年(大正12)9月1日に関東大地震が発生し、伊藤野枝が殺され、それを知った辻潤が11月に四国Y港で書いた随筆。
21歳の頃東京中央郵便局で郵便物仕分の夜間アルバイトをしていた。そのとき一緒に働いていた明治大学生が辻潤のことを教えてくれた。そして魅了されて彼に関する本を何冊か読み、ダダイズム・ダダイストを知り、一番惹かれたのは高橋新吉の詩だった。
新吉が病で療養してた地が前期の四国Y港である。随分前になるが、伊藤野枝や辻に関する本を何冊か読んでいて、辻の放浪生活は記憶の隅に残っている。大杉のもとにはしる前に野枝は辻との間に二人の子をなし、その長男まことに関しては本書の中で何度も現れる。
大正末期の地震・虐殺、辻の放浪などに思いを馳せる一方で20歳前後に読んでいた本や自分の関心事などを思い出す。また、伊藤野枝の知らなかった側面を目にし、彼女に関しての捉え方が少し変化した。
辻と野枝の絡みと別れを活写した本書を読んで感慨にふけるには予め彼らに関する本を読む必要がある。予備知識なしで本書だけを読んでも、描かれる時代と作家たちが描かれる世界には浸れまい。辻・大杉・野枝ばかりではない、高橋新吉・平塚雷鳥・佐藤春夫・宮崎資夫・谷崎潤一郎・生田春月等々、あの時代には魅入らされる。
<丸山薫 『圖書室のキハラさん』(KADOKAWA 、2025年)>:カワイク描きすぎていると感じるキハラさんではあるが、背景の本・書棚・図書館の画に惹かれる。そして本に関する格言がいい。別途その格言をまとめているwebにアクセスして楽しんでいる。
<ハルタ編集部 『ハルタ』137(小学館、2026年)>:予約発注までした最新刊。前にも書いた通り飛ばしてしまうものと立ち寄って読むものが明確に別れているが、以前より読まない頁が若干増えたような気がする。単行本で購入していた『本なら売るほど』と『司書正』はもう買うこともなくなる。
「ふしぎの国のバード」のイザベラ・バードは余りにも脚色されていて辟易する。実在の人物とその歴史については娯楽作品化の色合いが強くなるとつまらなくなる。
<永井するみ 『隣人』(双葉文庫、2013年/初刊2001年)>:6編の短編集。「隣人」「伴走者」「風の墓」「洗足の家」は殺人を伴うミステリーであるが、「至福の時」「雪模様」は恋愛・母への思慕と破局を軸にした男と女の心情ミステリーとでもいえば良いのだろうか。前の4編の殺人は殺す側も殺される側も厭らしい生き方をするツマラナイ人間に思える。否、全編に描かれる人たちには共感も同情心も抱けない、実際に身近にいれば距離を取っておきたい、そんな人たちばかりである。
この文庫本の表紙は猫の左半分の顔が大きく描かれていて素敵なカバーデザインである。