2020年10月27日火曜日

晩秋、江戸川乱歩賞受賞作

 いつものウォーキングコースの桜の木の下には落ち葉が多く、快晴の中にも晩秋を感じるようになった。 
 6.2kmほどのウォーキングも回を重ねてきたせいか、キロメートルあたり8分台で歩けるようになってきた。 

 <佐野広美 『わたしが消える』(講談社、2020年)>:第66回江戸川乱歩賞を受賞。マンションの管理人を務める、元県警ニ課の刑事だった主人公は軽度認知障碍(MCI)を医師から告げられる。乳飲み子だった娘を連れて出ていった妻とは18年ほど前に離婚しており、その妻は数ヶ月前に亡くなっている。介護施設でアルバイトする娘の依頼で、施設の門前に置き去りにされた「門前さん」の身元調査をすることとなる。主人公がMCI、「門前さん」も認知症、従って全編を認知症への辛さや恐れが流れている。過去を追うことになる謎は現在の世の問題でもあり、その設定には引き込まれた。が、後半の謎ときは軽いし安直と感じられる。テレビで放映されるドラマ「○○殺人事件」では、最後に景勝地に関係者が集まって事件の説明をするというシーンが頻繁に現れる、それと似たような説明シーンが本書にも続き、また、殺される瀬戸際でタイミング良く表れる警察など、安手の劇画調の場面がなんとも言えずに物語の浅さとなっている。それぞれの場面はそれなりに理屈づけられて説明されるが、いかにもとってつけたような感じは否めない。 
 主人公の過去への悔いや哀しみ、これからの不安と今後への向き合い方に内省的深みがあれば物語に重厚さが出るのにと思う。文章の流れはスムーズだし(改行だらけの文は好きではないが)、全体的にはストーリー展開が早く、娘とのやりとりも楽しめた。


2020年10月26日月曜日

飲酒、読書3冊

 海老で鯛を釣るが如くに美酒飛露喜が送られて来て、23日は夕方から痛飲。深夜になったらスコッチウィスキーを飲みながら本を読んでいたらついつい飲み過ぎてしまい、翌朝は喉の渇き激しく、少しだけだが宿酔気味。胃に優しい食事をしてこの日は断酒して温和しく過ごした。 
 本日25日にまた飛露喜を飲む。一升瓶を3回に分けて空けるペース。昔のような飲み方は出来なくなっている。 

 ここ一週間の間に本を10冊買ってしまった。雑誌も買っているからまたまた未読の本が増えてしまった。 

 <片山杜秀 『皇国史観』(文春新書、2020年)>:知ったつもりでいる皇国史観を俯瞰的に振り返るつもりでこの新書を開いた。前期水戸学からはじまって現代に至るまで平易に書かれており改めて得心するところは多い。前期水戸学からはじまって現代までの歴史観の流れは分かるが、なぜその歴史観に浸るのか、その心の動きはやはり理解できない。 

 <山田英生(編) 『現代マンガ選集 悪の愉しみ』(ちくま文庫、2020年)>:魅せられた作品はなし。「アカシヤの大連」(湊谷夢吉)のタイトルが諧謔的で面白く、絵もまた好きである。 
 前衛的な装いのある作品は(昔ならいざ知らず今は)まったく惹かれない。
  
 <奥泉光 『死神の棋譜』(新潮社、2020年)>:著者の小説は初めてで、あくまでミステリーの一冊として手に取り、頁を進めるにつれ虚実入り交じる展開に少々戸惑いを覚えながらいたが、最後にあたってはこの本はミステリーの装いはしているものの、例えば江戸川乱歩賞的なミステリーではなく、全く期待外れの作品だった。主人公はどうした、謎を見つけたのか、女流棋士の不可思議な行動は何なのか、彼女の実家の福祉施設はどう絡んでいるのか、異次元的な将棋教は何なのか、不詰めの棋譜は何の意味を持つのか、焼死した山木八段は何だったのか、等々狂気の物語はすっきりしないままに終わってしまった。端的に言ってしまえば奥泉光という作家のことを何も知らず、芥川賞受賞作家であることも記憶になく、新聞の宣伝の言葉に思い込みをして、不用意に読んでしまい、勝手に落胆しているに過ぎない。買ったまま何年も放ってある『東京自叙伝』も心して読まねばなるまい。

2020年10月17日土曜日

雑記、青春ものミステリー

 インフルエンザ予防接種、高齢者なので費用は無料。 
 
 ニュースを見ると不愉快さを感じることが多いので、繰り返しは見ないようにしている。何も国内ばかりではなく海外も含めてのこと、i.e.,この世の人間社会のこと。過去に起きたことも、いま起きていることも全てを取り入れて自分の立つ位置を考えること、これが難しい。

  冷雨、暖房機を出してしまった。

  <宇佐美まこと 『夜の声を聴く』(朝日文庫、2020年)>:隆太の目の前でリストカットする百合子、隆太は優秀な頭脳をもつが引き籠もりの日々をおくっていた。百合子が通学する定時制高校に通うようになり、そこで大吾と知り合い、彼が住み込むリサイクルショップ兼便利屋の”月世界”に頻繁に足を向けることになる。”月世界”が依頼された物件を解決するなかで比奈子と知り合い、また物理学者の廣紀とも知り合い、目の前の事件を解決していく。最終的には大吾と大吾の雇い主であるタカエが関係する11年前の殺人事件を解決し、隆太は新しい道に踏み出す。  
 日常生活の中でミステリーがあって、そこに関与しながら隆太たちの青春生活が描かれる。章立てが一切なく、それが新鮮に感じられた。8歳年下の63歳で、その年齢の男性にしては随分と瑞々しい柔らかい物語を作っていると、著者の若々しさを感じていたが、読後にwikipediaで確認したら女性作家だったことを知り、あっそうかと少し得心した次第。
 新聞の読書コーナーで知った作品で、10代の人たちが語り行動する物語には青葉に当たる陽のまぶしさのような輝きを感じ、自分の10代の頃を少し振り返ったりした。

2020年10月12日月曜日

大学ラグビー開始、加藤陽子著書一冊

 2020年度の関東大学ラグビーが例年より約1ヶ月遅れの10月4日にスタートした。スケジュールはタイトで18日まで毎週実施される。全試合がJ Sports CATVで放送されるわけはないので、いつものようにオンデマンドに登録しPCやタブレットで見ることとなる。
  4日はまずは筑波vs慶応戦をTV観戦し、筑波が勝利(3T3G3PG-3T2G)。昨年の慶応は最後の最後で逆転負けし、今季は力負け。
  さて、早稲田の初戦は青学だがぱっとしない(47-21/7T6G-2T1G3PG)。昨年Aでなかった選手が大勢出ていてまだまだチーム作りの途中という感が強い。ミスも多い。インターセプトのトライはしようがないとしても3Tは取られすぎだろう。選手が集合している場面を見ると早稲田は全体的に小さい。
  続く第2戦の立教戦は46-7/8T3G-1T1Gで、立教のトライは前戦に続いてのインターセプト。2戦を通じてスターティングとリザーブで合計46人の選手が登録されるのだが、2戦共に名を連ねている選手は13人のみ。つまり、察するに、まだまだ試合を通じてチーム作りの真っ最中なのであろう。明治・帝京にしてもそうであるかもしれないし、各校の実力を測れるようになるのは早慶明帝筑が相互にぶつかりあう11月に入ってからとなる。

  <加藤陽子 『戦争まで  歴史を決めた交渉と日本の失敗』(朝日出版社、2016年)>:菅政権の、というより安倍政権から継続する政権の横暴(権力行使には常に誤魔化しがついてまわる)、それが単純に表に出た日本学術会議会員任命問題、その任命除外になった6人の一人である加藤陽子教授。
  9年前に読んだ『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』に続く本書は、前著と同じく中学生・高校生に講義したもので、高度な内容を平易に論述している。
  リットン報告書を巡る交渉(①)、日独伊三国交渉(③)、そして太平洋戦争直前までの日米交渉(③)。簡潔に「日本の失敗」をあとがきから引用すれば、“見かけだけの「確実」性に騙され(①)、自分だけの利益を上げようとして普遍的な理念を掲げることを失念したり(②)、自国の安全について、自らリスクをとる覚悟がないまま、被動者としてふるまいつつ結果的に戦争に近づいていったり(③)”したことである。
 歴史を知る、その知るために探求すると言うことは微に入り細に入り知り得た事実(史料)を自分の言葉で語ること、その深さを改めて認識させられた。

2020年10月5日月曜日

名が入った戒名、本一冊

 テレビで録画した安直なミステリー・ドラマを見ていて、女性が夫の位牌の前に座っていた。画面の奥に見えるその位牌の戒名は「恵○○道居士位」となっているではないか、○○にはオレの名前がすっぽりと入っている。なるほどオレの名はそのまま上下に適当な漢字を入れるとそれらしく見える戒名になると妙に感心した。 

 <堀田江理 『1941 決意なき開戦-現代日本の起源』(人文書院、2016年)>:「アジア・太平洋の政治、経済、外交、社会、文化などについて優れた著書を発表した研究者や実践者に贈られ」る「アジア・太平洋賞」の第28回特別賞受賞作ということで、帯には「なぜ挑んだのか、「勝ち目のなき戦争」に?」とある。 
 本書の目的は「日本の真珠湾攻撃に至るまでの8ヶ月間を、わかりやすく述べること」であるとされ、膨大な文献を参考に丁寧に述べられている。8ヶ月間の事だけを述べるのではなく、人物の人となりや外交交渉などのやりとりが詳しく書かれており、故に「歴史ドキュメント」(帯の文)とされるのであろう。しかし、全体的にあっちに行ったりこっちに来たりと総花的であり、冗長でもあり、読み進めるのに忍耐と努力を要する。近現代史上の人物のエピソードや性格などは別途注記にでも補足すれば贅肉も取れて内容が絞れるのにと思うことしばしば。