2023年7月31日月曜日

暑い、『まいまいつぶろ』

 暑い、異常に暑い、酷く暑い。運動不足のために行っていた50分ほどのウォーキングもかなりのあいだ中止状態となり、スーパーなどへの買い物も車で出かけ、家にいる時間が以前にも増して長くなっている。罪深きことは何もしていないのにお上より蟄居を命じられている様でもある。

 <村木嵐 『まいまいつぶろ』(幻冬舎、2023年)>:徳川8代将軍吉宗の嫡男/9代将軍/家重。障害により右半身不自由で言語不明瞭(脳性麻痺の説がある)。登場人物は、家重の「お口」となる大岡忠光(後の岩槻藩主)、妻となり早世した比宮、彼女の侍女で10代将軍となった家治の母幸(こう)、忠光の父と再従兄弟の大岡忠相、さらには、吉宗将軍時の老中酒井忠音・松平乗邑、家重将軍時の老中松平武元・酒井忠寄・若き日の田沼意次。家重と彼等彼女等が活写される。登場する人物たちは実在するが彼等のことは知りもしなかった。Wikipediaをみれば、この小説の中で描かれる登場人物たちの輪郭は概ね事実である。その歴史的事実に小説という肉付きを加え、血を通わせて江戸城内における物語を展開させてくれる。現実は、人間の欲望はもっとドロドロしたものであろうが、それらはさらっと流して、心地よい気分に浸してくれる傑作。書店で平積みになっているほどにベストセラーとなっていて楽しませてくれた。

2023年7月21日金曜日

心地よい一時、『木挽町のあだ討ち』

 50分ほどのウォーキングをして、自宅へ向かう最後の横断歩道を渡ろうと歩行者信号のボタンを押そうとしたところ、反対側にいる女子中学生が先に押し、こちらと眼を合わしたとき彼女が軽く会釈をしてくれた。ありがとうと少し大きな声をかけたら再び会釈をしてくれた。信号が変わるのを待った。彼女の服装から見て近くの中学校、つまり孫娘と同じ中学校に通っている子である。学年は分からない。
 信号が青になり、互いに向き合って横断歩道を渡りその中学生と交差するときに彼女はまたも優しい柔らかな表情で頭を下げ、通り過ぎていった。心地よい一時だった。

 <永井紗耶子 『木挽町のあだ討ち』(新潮社、2023年)>:一人称で語られる「あだ討ち」を核として、武士・庶民・芝居小屋を舞台とした人情話・ミステリー。傑作、楽しんだ。
 「あだ討ち」の「あだ」が平仮名で書かれている意味が終章になって明かされる。それまでは「仇討ち」としての物語である。
 以下、本来はネタバレにもなる内容を書くべきではないが、後に記憶を解すために、そしてこのブログを訪れる人も尠いのでメモとして記しておこう。
 第一章 芝井茶屋の場:吉原の女郎(花魁ではない)の子として生まれた、森田座の木戸芸者一八はある武士(18歳)に2年前の「木挽町の仇討ち」物語を語り始める。仇討ちする武士は伊納清左衛門と一子菊之助。齢は15~16歳。仇討ちの相手は作兵衛。仇討ちは衆目の中で行われ、菊之助は首級をとり無事本懐を遂げる。
 第二章 稽古場の場:御徒士の三男坊で芝居小屋の立師を生業とする与三郎。菊之助に剣を指南する。
 第三章 衣装部屋の場:衣装部屋で裁縫をする二代目芳澤ほたるは天明の浅間山噴火で母親と一緒に江戸に来て、やがて孤児となり隠坊に育てられた。菊之助の仇討ち時の赤い衣装を仕立てる。
 第四章 長屋の場:江戸に来のはいいが寝るところがない菊之助は、ここまで登場した語り手の世話もあって無口の久蔵とその妻お喋りのお与根の世話になる。久蔵は腕の立つ小道具を作っている。
 第五章 枡席の場:籏本の次男坊で放蕩生活にあった野々山は自分の生きる先に悩み、許嫁お妙との婚姻(婿入り)を断り、武士を棄て篠田金治と戯作者となる。お妙は実直な武士に嫁いで夫の国に向かった。20年ぶりにお妙から野々山の家に文が届き、菊之助のことが書いてある。菊之助はお妙の子であった。
 終章 国元屋敷の場:「木挽町の仇討ち」を聞き回っていたのは江戸番となった総一郎で。菊之助の友であり、彼の許嫁お美千の兄。ここで仇討ちの全貌が語られる。「あだ討ち」は「仇討ち」で「徒討ち」であり、鮮やかに物語は了となる。
 構成、語り、人情、陰謀とその解明、謎とき、・・・とても楽しめた。帯に書かれた「作者の巧緻充実」(縄田一男)、「ミステリ仕立ての趣向に芝居町の矜持」(中島かずき)を十分に味わえた。

 上記を書いてからネットでニュースを見たら芥川賞と直木賞受賞の報が流されていた。『木挽町のあだ討ち』が直木賞を受賞となっていた。前回の『しろがねの葉』でもそうだったが、楽しんで読めた小説が受賞となって単純に嬉しい。

2023年7月13日木曜日

暑い、高齢になると、古代史の新書、酒のマンガ

 10日の昼食後、少々酒精が入っていたが近くの本屋までのウォーキング。危険な暑さとの報道があった通り酷く暑かった。途中で引き返そうかとも思ったが大した距離でもないので兎に角歩き続けた。帰宅後のシャワー後が気持ちよい。この気持ちよさを味わうために歩いているようなものである。この暑さは数日連続し、数日間外歩きは止めた。
 高齢になると暑さにも鈍感になるのか、エアコンの設定温度が以前より1~2度高くなっている。飲酒量は減るし、記憶容量は小さくなるし、多分忍耐力は低下しているし、世の中や他人への関心度も低くなっている。まぁ成るようにしか成らないヵ、でも何かしら新しいことは為し続けてはいたい。

 <安倍野郎 『たそがれ優作 1』(幻冬舎コミックス、2023年)>:書店をぶらついていていると新聞の広告や書評で目につかない作品に出会う。バツイチ独身50代の脇役俳優が飲み屋で味わう酒と料理。登場する飲み屋に出会う環境下にいる作者が羨ましくも思える。今秋、北村有起哉主演でのドラマが放映される予定とある。「深夜食堂」は一度観て止めたが本作のドラマにはちょいと期待する。

 <虎尾達哉 『古代日本の官僚』(中公新書、2021年)>:古代であろうと現代であろうと人間の行いは不変である。一定の地位と収入を保証されれば組織的に忠実であろうはずもない。また、昇進の可能性がなければ学習の意欲など湧くはずもない。また、官人が怠業し、怠慢であることを見過ごす側にも理由と目的が存在する。
 文中の文章をつなぎ合わせて次のようにまとめておく。すなわち、古代日本の律令国家においては、「官人たちの潔いほどの怠業と国家の堂々たる欺瞞」が普遍的に存在したが、「官人の怠業・怠慢をある程度織り込みながら、無駄なく効率的なランニング・コストで官僚機構を維持しようとする発想」に基づいて制度設計されていた。しかし、「高貴な者こそ公益のために自らを犠牲にする。ノブレス・オブリージュの精神は古代日本にも確かにあった」。
 儀式をサボるというと頭に浮かぶのは新年の年頭儀式。ある時期からずっとこの日は休暇をとって出勤しなかった。冷え切った体育館などに集合し、社長や部門担当取締役の形式的な言葉を聞く時間がどうにも無益と思え出席しないでいた。定年退職が近づいてくると上位者にとっては耳の痛い発言も気にしなくなり、つまり人事考課にも無頓着になり、マイペースの強度が上昇する。この新書の頁を進めていて古代官人に通底する人間の性というものを感じていた。

2023年7月10日月曜日

飲み会、ミステリー1冊

 下書きを書いたまま投稿を忘れていた。

 先月30日金曜日、友人二人と飲むために2か月ぶりに電車に乗り北千住へ行く。12時半待ち合わせで、合流して足はまっすぐに飲み屋に向かう。平日の真っ昼間というのに最初の店も2軒目の店も混んでいる。飲み過ぎの徴候が出たらブレーキをかけてくれるように頼んでいたが、一人からは、お前は飲んでいる間はホントに酒に強い、飲み終わると途端に酔っ払ってしまうからブレーキのかけどころが分からん、と言われてしまった。それでも4か月前の酷い状態にはならずに帰途の電車に乗った。ふと気づいたら車窓からの夜景が真っ暗でビルの灯りなどが見えない。やばいと感じたら急行終点の久喜の手前だった。北千住駅で連れ合いにLineしていたから帰宅が遅いと感じた彼女からタイミング良く、寝ていないかとメールが入った。久喜駅で電車を乗り換え、春日部駅からは歩いて帰宅。北千住で久喜行きと知っていたので安心して居睡をしたのかもしれない。これがもっと遠い、例えば舘林行きだったらば座席に座らずに立ったままでいたと思う。今までの苦い経験からして。

 <櫻田智也 『蝉かえる』(東京創元社、2020年)>:昆虫が介在する良質のミステリー5編。全編を通して登場するのは昆虫オタクの魞沢泉(えりさわせん)。蝉・コマチグモ・フンコロガシ・ホタル・ツェツェバエが人の生きることの悲しみの周りにいて、その悲しみの謎が人によって解かれる。