2023年4月16日日曜日

万年筆、文庫本2冊(赤松利市)

 入学祝いのし袋に苗字を書く際、久しぶりに万年筆を執った。長らく使っていないのでカートリッジ・インクを入れて何本かの万年筆で試し書きをした。やはりというか、ボールペンと違ってペン先がなめらかで書き心地がよい。これを機に眠っていた万年筆を日常使いに目覚めさせた。3本出した。ちょっとしたメモ書きにも使おうと思い、不足していたカートリッジも発注した。万年筆ごとにカートリッジの仕様が違うのが今更ながら不便に思う。
 会社勤めの頃はミーティングの時も含めてノートにメモするときはすべて万年筆を使っていた。会議ではそれが珍しかったようで何度かそれを指摘されたことがあった。
 愛用のモンブランはもう30年以上の使用歴があり蓋栓(天冠)のところに不具合が出てきた。振り返れば、高校時代も万年筆愛用者だったし、当時の写真の胸ポケットにはノック式万年筆が写っている。大学入学時に友人の母からプレゼントされたのも万年筆だったし、最初の勤務先を退社するときに先輩から贈られたものも万年筆だった。・・・ノック式(キャップレス)万年筆を1本欲しくなった。

 <赤松利市 『純子』(双葉文庫、2022年/初刊2019年)>:下肥汲みの家に生まれ、母親は井戸に身を投げ、父親は金を送ってくるだけ。幼い頃から体を売ってきた祖母は祖父に殴られすぎて顔半分が崩れて里からは嫌われている。女として高く売るための教えを祖母から受け、化粧を施される美人の純子は粗野であり性的にも耳年増になっており、化けて出る母親や地藏と話す。と書けば悲惨なある種の同情を惹く純子であるが、それは全くなく、全ページを通して描かれるのは貧乏で粗野で下品なそれでいて明るいスカトロ小説といったところか。糞便のにおいがしてこないのは、この小説の傑れているところなのか、はたまた著者の明るさなのか筆力のなせる技なのか。肥桶を担いだ純子が描かれる表紙は明るい日射しがあってキレイなのだが、読み終わった後で眺めれば光り輝く黄金の糞尿の色にも見えてくる。

 <赤松利市 『犬』(徳間文庫、2023年/初刊2019年)>:男同士の愛と暴力、軸となるのは家族や金。
 かつてのニューハーフで63歳となる桜は大阪の座裏で泡盛を売りにするバーを営み、そこでは若くて美しく、パンクファッションに身を包み、男性とはだれも想像しえない沙希が働き、桜を母のように慕う。桜のかつての男・安藤が現れ、昔の寄りを戻すが実は桜の金を簒おうとし、桜はそこにはまっていく。沙希は安藤の危うさ察知して金を奪い隠して行方をくらます。金を奪おうとする安藤が桜に寄生し暴力で支配し沙希を追う。大阪から岡山、長崎と旅は続き、その間に読んでいても気持ちが悪くなるほどの暴力と性行為が続く。痛みは、暴力と肛門性交と家族愛を盾に取った脅迫による精神的苦痛である。
 暴力描写には若干辟易するがスピード感ある展開に引き込まれる。LGBTと総称される人たちは個々にLであり、G、B、Tであるのだが一括りにしてLGBTと呼称するのはある種の差別ではないかと主人公が独白する。それには首肯する。個を中心におき、他者の個にも自分の個と同様の価値を認めればこういった区別(差別)観念はなくなるのではないかと思う。これを進めればアナーキズムの一種に繋がるヵ。

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