2020年7月21日火曜日

新書3冊

 <馬部隆弘 『椿井文書-日本最大級の偽文書』(中公新書、2020年)>:『偽書「東日流外三郡誌」事件』のような“面白さ”を期待していたが、極めて学術的な研究書で、多くの偽書を作った椿井政隆(権之助、1770-1837)の物語には入り込めなかった。興味を引かれたのは、偽書作成に用いられたテクニックや、近世から現代までこの偽書を活用している研究者や郷土史のあり方である。
 京都新聞の記事(2020年5月8日)が本書の価値を端的に述べている。即ち、本書は「地元の歴史関係者らに波紋を広げて」おり「特に関わりの深い山城地域では定説が覆りかねな」く「郷土史が再検証を迫られる」と。

 <井上寿一 『理想だらけの戦時下日本』(ちくま新書、2013年)>:主題は1937年から始まった国民精神総動員運動(精動運動)。「八紘一宇」「挙国一致」「堅忍持久」からおなじみ(?)の「ぜいたくは敵だ!」「パーマネントはやめましょう」「進め一億火の玉だ」のスローガンはこの時期が流布された。この時代に真摯に向き合うというより、これらのスローガンには嗤笑を抑えられない。
 本書は精動運動の色々なエピソードを並べているだけという感が強く、あとがきに著者の主張が述べられているが、精動運動の分析からの論理的展開が弱い。
 読み終わった今も、書名の「理想だらけ」の理想にどのような意味を持たせているのかよく理解できない。八紘一宇から日常生活の細部まで「理想」を求めることが蔓延した時代だったということなのか。

 <宮口幸治 『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書、2019年)>:非行少年たちのみならず、犯罪者たちへの見方が変わる。寛容的になるという意味ではなく、問題の深層に埋もれているもの、そして解決策とされていることが単にその場を繕うだけの表層的なことでしかないこと、それらが理解できる。特に、イジメの深刻さは社会的にもっともっと取上げられてもいいのではないかと思う。

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