2020年7月1日水曜日

本一冊

<ハリエット・アン・ジェイコブズ 『ある奴隷少女に起こった出来事』(大和書房、2013年)>:本文からの引用で本書の内容を記す。
[Ⅰ 少女時代 1813-1835]
1813年ノースカロライナ州に奴隷の娘として生まれたリンダ・ブレント(ハリエット・アン・ジェイコブズの筆名)は、自分が奴隷であることを知らず、両親の庇護のもと6歳まで平穏な子ども時代を送る。その後、母の死により、最初の女主人の元で読み書きを学び、幸福に暮らしていたが、優しい女主人の死去のため、医師ドクター・フリント家の奴隷となり、一転不遇の日々が始まる。
15歳になった美しいハリエットは、35歳年上のドクターに性的興味を抱かれる。ドクター・フリントから逃げ回る奴隷の不幸な境遇に、たった一人で苦悩するハリエットは、とうとう前代未聞のある策略を思いつく。
[Ⅱ 逃亡 1835-1842]
サンズ氏の子どもを身ごもることで自由の道を開こうとしたリンダに対し、ドクター・フリントの変質的な執着は止むどころか、いまや子どもたちも彼の支配下に入れられ、プランテーションで奴隷として調教されることになる。リンダはふたたび自分と子どもの自由のために一計を案ずる。どしゃぶりの雨が降る真夜中、プランテーションから逃げ出したリンダには懸賞金がかけられ、報復のために子どもたちは牢に入れられてしまう。
[Ⅲ 自由を求めて]
7年間の屋根裏生活のあと、突如訪れた危機と幸運に助けられ、リンダは北部フィラデルフィアに向けて出発する。別れた娘エレンと再会するが、サンズ氏の約束とは裏腹に、娘は女中として遇されており、リンダを失望させる。
子どもたちと一緒に自活するために、ニューヨークで働きはじめるリンダに、フリント一族の追手がせまる。逃亡奴隷法成立により、ニューヨークでも奴隷として追われるリンダは、我が身の安全よりも、自由という栄光を獲得するために、自分がなすべきことを考えはじめる。
最終的にはブルース夫人の大いなる援助があってリンダは自由を獲得する。
奴隷制という制度は、奴隷を過酷な生活に貶めたことは間違いないが、(著者の指摘にもあるように)一方では白人に自らの残虐性を気づかせたとも言える。制度(法律)がなければ残虐性を表に出さずに済んだ白人もいたのではなかろうか、そんなことがふと頭に浮かんだ。

 佐藤優が解説にて「本書の翻訳は実に見事だ。英語から正確に翻訳しているというだけでなく、リンダの心象風景が読者にリアルに伝わる」と述べている。しかし、訳された文を読んでも何を述べているのかよく分からずに何度か読み直す箇所が幾つかあった。直訳調であるとも感じたが、これには訳者の意図を入らせずに「意訳」にならぬようにした結果であろう。

0 件のコメント: