2022年2月11日金曜日

ジョージ・クラム、雪、戦後日本の一冊

 ジョージ・クラムが亡くなった。92歳。最初に聴いたのはLPで「夏の夕のための音楽(マクロコスモスⅢ) アンプリファイされた2台のピアノと打楽器のための」、次は年月を経てからCDとなり、クロノス・クァルテットが好きなことで「ブラック・エンジェル」、「魅入られし風景」はジャケットが印象的。CDの「マクロコスモスⅢ」は「幼子たちの古えの声」とカップリングされておりLPと同一演奏。「マクロコスモスⅢ」は深夜によく聴いた-連れ合いがいるところで聴くとこの曲は嫌がられた。

 10日の朝、雪が降っている。窓から見える家々の屋根に薄らと、まだ塗り始めたばかりの白粉のようである。
 「しんしんと雪が降る」の「しんしんと」は好きな表現で、中学生になろうとする頃、奥会津の鉱山社宅の冷たい窓から見える、雪が降る夜の情景を思い出す。電信柱の上にある電球の灯りが下に円錐形の形を作り、雪が静かに降っていた夜の10時頃、人がひとり背を丸めて歩いていた。あの頃の雪は、何かを暖かく包み込んでしまいそうであった。翻って今は海を隔てた地で、茶色の丘陵が人工の雪で固められ、どこか虚しい祭典が創られている。

 <豊下楢彦 『昭和天皇の戦後日本 <憲法・安保体制>にいたる道』(岩波書店、2015年)>:憲法と安保体制が戦後日本の方向性を定めた。敗戦後にマッカーサーをはじめとする米国に向き合って憲法と安保体制の基礎を固めた根源的要因は、一つには昭和天皇が考える天皇自身の存在目的にあり、もう一つはその天皇を日本国民-特に政官-がどう捉えていたのか、ということにある。史料から展開された論理は明快で、モヤモヤしていたものに輪郭が与えられ得心した。
 帯に書かれた、「あとがき」から引用された文章を要約すると、天皇は「皇統」を維持する目的のために一切を従属させた徹底したリアリストであり、象徴天皇と規定された憲法をも逸脱する政治的行為も辞さなかった。その延長線上に現在がある。
 明治憲法から現憲法改正への経緯、第1条と9条制定の意味、天皇が裁かれなかった経緯、マッカーサーの意思、天皇と沖縄-というより本土という解釈、ダレスと安保と日米地位協定、國體が意味するところ、等々頁に線を引き、メモを書き込みながら引き込まれて読んだ。手許に残しておく一冊。

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