2022年2月3日木曜日

酔っぱらいが世界を変えた

 <ブノワ・フランクバルム 『酔っぱらいが変えた世界史 アレクサンドロス大王からエリツィンまで』(原書房、2021年)>:「ホモ・ノンベラスに遺伝子変異が起き」、エタノールをより早く分解(代謝)されるようになり、ひとは呑兵衛となり、大きな歴史変化に関わってきた。遺伝子変異説は、アメリカで提唱された「酔っぱらいのサル仮説」と呼ばれている「科学史上の最高傑作ともいうべき名称をもつ学説」であると書かれている。人類は大きな進歩を遂げてきているが、「進歩とは、長い歳月にわたる二日酔いのようなものではないか、という考え」から発した論説であるらしい。とするならば、二日酔いはいつか醒めるものであるが、酒飲みはどんなにひどい二日酔いでも苦しみの記憶を消し去り、飲むことを繰り返す。拡大すればアルコール中毒に罹患した「生」という名の病気なのであろう。
 318万年前の化石人骨はルーシー (Lucy) と呼ばれ、その愛らしい名前はビートルズの曲など多くの親しみやすいネーミングとなっている。ルーシーは転落死した可能性があるとある人類学者はいっている。酔っぱらって落ちたのか否かは判らずも、おいしいウォッカ・カクテルに「ルーシー・ラブ」があり、それはルーシーが酔っぱらっていた証拠ではないかと主張するにおいては、面白くて喝采をおくりたくなる。
 日露戦争での旅順攻囲戦は、日本が制したのではなく、「ロシア軍が底なしに酒をくらって戦いに敗れたのだ」とある。そうか、ロシアは前線に多量の酒を供するほどに裕福だったのか、決して日本軍が優れていたのではない。ロシア艦隊が撃沈されたあとには「数百本の酒瓶と4400名のロシア海兵隊員の死体が海峡の海にただよっていた」とのことで、さらに旅順陥落後、日本軍到着時に、ロシア軍は備蓄の食料を焼却するよう兵士に命じたが、兵士たちは拒み飲んでしまった。退却の途についた兵士たちは酔っぱらい、銃は失くしてしまうは卑猥な歌を歌うは、酔って倒れ、あげくは日本軍にいとも簡単に銃剣で刺された。参謀たちはシベリア鉄道の中でシャンパンを飲み気勢をあげて逃亡した。このエピソードで歴史を振り返ってみると、なまじっか日本軍は大国との戦で勝利を得、結果的に己の能力を過信し、錯誤と妄信に酔ってしまい、ためにのちのノモンハンなどをはじめとしてアジア太平洋戦争で悲惨な結果に繋がった。

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