2023年3月10日金曜日

ハートの穴、時代小説2点

 いつもの散歩/ウォーキングコースで、 “おすい”のマンホールすぐ近くにハート型をした小さな穴を見つけた。愛の陥穽に足を取られ、挙句の果ては蓋で閉じられて暗渠を流れる・・・というショートストーリーがふと頭に浮かんだ。



 <中島要 『酒が仇と思えども』(詳伝社文庫、2021年/初刊2014年)>:酒にからむ時代小説-人情話6編。
 「酒が言わせた言葉に文句を言うのは無粋の極み」なんて言って、酔っ払いを受け入れてくれる女性がいたらもう至福であろう。が、それは単なる酒好きの勝手な言い分ではある。
 「嫌なことを忘れるために飲む酒もあれば、本音を言うために飲む酒もある。でも、飲んで一番うまいのは祝い酒でしょう」。最後の言葉は肯定するが、前者二つの主張は好きでない。
 「大工と破れた番傘は、雨の間は出番がない」-そもそも破れた番傘に何の価値があるのだろうか。
 「下り酒だって波に揺られて価値が上がる。人も苦しい思いをしないと、一人前になれないんだよ」。そうだよ、宿酔を経験し、反吐を吐いて、時には雨に濡れた舗道で尻を打ち、連れ合いに怒られたりして酒を飲む苦しみを知り、そして楽しみを体得する。何かを得るには何かを差し出す、これは世の摂理。・・・欧州(多分)のことであるが船で揺られて運ばれたビールは美味い、だから船で揺られることを模して揺ら揺らする装置を作りビールを揺らした、という逸話を読んだことがある。

 <高瀬乃一 『貸本屋おせん』(文藝春秋、2022年)>:文化期の江戸は浅草。母親は男を作って出奔し、版板を彫る腕の良い職人だった父親は御公儀から職を奪われ、揚句に酒に溺れ川に身を投じた。天涯孤独となったおせんは本を読むのが好きで写本も書き、本を積んだ高荷を背負い、貸本屋として江戸中を振り売りして歩く。おせんが貸本屋稼業をしている中で出版にからむ事件が起こり、それを解決する。全編5話の楽しめる一冊。「オール讀物新人賞」を受賞した、著者初めての刊行本。続刊を期待する。

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