2024年9月20日金曜日

小説一冊と講談社メチエ一冊

 20日、大谷が6打数6安打10打点4得点-3本塁打2二塁打1単打2盗塁で51-51となった。驚いた。生きている間に大谷の記録を超えるニュースに触れることはないのではないか、とさえ思える。

 <真保裕一 『共犯の畔』(朝日新聞出版、2024年)>:舞台は群馬県鈴の宮ダム。建設と中止を繰り返し、計画からダム完成まで68年を有した八ッ場ダムをヒントにしている。群馬県といえば福田・仲曽根、安部応援団だった山本知事、オブツと揶揄された小淵の娘のPC破壊行為、そして八ッ場ダムといえば前原の顔が思い出される。
 そのダム建設の推進派と反対派の町長選挙を巡る地元の動きと、政党から派遣された職員の活動をメインに、まずは序曲といった風に昔の情勢を描く。冒頭の誘拐事件とどう結びつけるのかが読んでいて気になる点だが、やがて誘拐監禁の現在に至ってその動機、犯罪に名を借りた真相解明の動きが明らかになっていく。そこには真摯な弁護活動に勤しむ弁護士の行為と葛藤も入り交じる。
 最終章になり、犯行に及んだ若者たちと被害者を装う秘書の彼らの連携がはっきりとする。その最終章に到っては「共犯」とは誰を指すのか、犯罪の畔に潜む者たちへの糾弾が描かれる。その場面は著者の、政治やマスコミ、国民(民衆)たちへの認識が描写されていると思い、この作者の作品を読み続けている我が身からすれば、改めて作者への親近を感じた。

 <植村和秀 『昭和の思想』(講談社選書メチエ、2010年)>:丸山真男・平泉澄を「理の軸」の左右におき、西田幾多郎・蓑田胸喜を「気の軸」の上下(ポジティブ/ネガティブ)に位置させ、「昭和の思想を包括的に俯瞰」して論考する。
 仏壇と神棚を普通に併存して重複し、絡み合っている日本人には複数の異質な考えがあるのではないかという主張には首肯する。そこに十字架がかけられれば尚更である。短絡的に言えば日本人のある種の美徳とも言われる融通無碍、あるいは優柔不断(曖昧)にも繋がる。
 幕末・維新を経て西欧に並ばんと背伸びしていた明治期に区切りをつけ、背伸びが弛緩した大正期を経て昭和に入った頃、江戸期を生きてきた人たちが前線から引退し、かつての日本という文化(雰囲気)は人為的に構築するしかなく、それは恰も生ものを干物に作るように加工する作業だった。これは本書に書かれていることにプラスした、単なる私の私感というか持論である。
 丸山真男については幾つかのテキストを読み、「古層」「執拗低音」が深く印象づけられ、頭に浅く残っている。平泉は頑固一徹の皇国史観歴史学者で戦後は福井の実家の神社に帰り、後に東京で国史研究を続けたという知識しか持ち合わせていない。西田幾多郎については名前を知ってはいてもその哲学は分かっていない。
 本書で精読したのは蓑田胸喜に関する論考。本書でも指摘していることだが、蓑田に関して自分は次の捉え方をしている。すなわち、蓑田は、かつての紅衛兵(および同調して毛沢東語録を持っていた高校同級生と社会的ブーム)、ネトウヨ(右翼ではなくネットに群がるバカども)、一側面での三島由紀夫の言動、などに類似性を見ている。
 蓑田が「違和感を持つ思想や学問」を「徹底的に否定」するのは、「自分を守り日本を守るため」であり、「他者の存在自体が、蓑田には攻撃と感じられ、それはすなわち、日本への攻撃であると信じるから」であり、「他者の言葉が自己の内面を拘束せんとすることへの拒否であり、自己の内面を保護せんとするための過敏すぎる反応なのかもしれ」ないと著者は指摘する。「とにかく蓑田は、原理日本の信仰に執着して、勝手に敵と断定した相手を責め続ける」。蓑田の「拒否反応は、蓑田の内面に由来して」おり、「蓑田が自己の内面を語らなければ、相手には理解不能なはず」だが、「自己の内面を語ることは、自己の内面を自己の言葉によって拘束することにな」るので、「そのため葦田は、他者を責め続けて、自己を表現するしかない」。
 著者の分析はとても分かりやすい。現在SNS等で他者を執拗に攻撃するのは、攻撃することでしか自己表現ができないのであろう。自分の思考の内面を語ればその言葉によって自己を狭い領域に閉じ込めてしまい、そこをターゲットにした批判・攻撃は自己に向けられ、保護されなくなる。それを回避して自己正当化するには、自己を語らずに他者を一方的に攻撃批判し、その行為によってしか自己表現できなくなっている。従って蓑田的人間はネガティブな批判や攻撃をするしかない。蓑田は「私生活では善良な家庭人であり、小心な苦労家で」、「また金銭に潔癖で、地位や肩書にも恋々とし」ない人であった。蓑田の「同志たちは、友はひたすらにほめ、敵はひたすらに弾劾する仲間たち」だった。これらの指摘は、マスコミにて語られるネトウヨ的人間のプロファイルに似通っている側面があると感じ取ることができる。

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