2021年3月13日土曜日

小説・数学・江戸期の性

 <長岡弘樹 『にらみ』(光文社文庫、2021年/初刊2018年)>:よくひねってある短編7編。少々食傷気味となる。

 <横山明日希 『文系もハマる数学』(青春新書、2020年)>:理系(詳しくは工学・機械系)の人間で、齢重ねても文系とは言えない己ではあるけれど、暇潰しに読むのには丁度よい。知っていることもあれば、新たに知ることも少なくない。要は、頭の体操のような面白さがあって楽しめる。
 「青春新書」というネーミングがこそばゆい。

 <沢田美果子 『性からよむ江戸時代-生活の現場から』(岩波新書、2020年)>:貴重な史料を発掘し、そこから江戸期の庶民の生活を見出す。人々の欲望や哀切を、滑稽さをも含めて思い巡らすが、結局のところは人間の営みは根本的には何も変わらず、ただ生活を取り巻く環境とそれに呼応する様態が変化しているだけと思う。
 明治になって良くも悪しくも江戸期からの文化は変質した。女性への新たな差別と抑圧に繋がった「芸娼妓廃止令」。銭湯や湯浴み、庭先での盥での涼みなどが目に入ってもそれを意識の眼に入れることのなかった文化を滅しさせた「違式註違条例」。「さらに、江戸時代に多く出回っていた、性交のプロセスをはじめ性についてのさまざまな知識を述べた「艶道物」が大量に焼き捨てられ」た明治。そして、「江戸時代には陽根や玉茎、男根と言われていた男性性器を「陰根」と翻訳、朱門、情所、玉門と言われていた女性性器を「陰門」とするなど、すべてを「陰に追いや」つた」明治。少なくはない政治家や文化人は明治を礼賛するが、やはり抗いたい。
 全体的な感想を一言で書けば、「交わる、孕む、産む、堕ろす、間引く」といった性の具体的側面に沿って探」るなかで、「人々の歓びや希望、不安や葛藤を明らかに」するには本書には物足りなさを感じる。

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