2021年8月11日水曜日

雑多な本を介して

 <東野圭吾 『白鳥とコウモリ』(幻冬舎、2021年)>:7編の短編をもとにして本作を再構築したもので、時折後出しじゃんけんのような謎ときに些か抵抗は覚えるもの楽しめた。過去の事件を隠蔽し、沈黙を続け、さらに己と家族を犠牲にして現在の事件をもまた嘘で固めてしまおうとする。自ら犯人となった者には全く共感できない。加害者で被害者となった弁護士の娘、嘘を貫いて犯人となった者の息子、そして刑事。この三人を中心に物語はすすむ。ジグソーパズルを上手に散らして当てはめていく手腕はさすがと思う。

 <弓月光 『瞬きのソーニャ③』(集英社、2020年)>:6年ぶりに読む続刊。「『ソーニャ』は完全に趣味。気晴らし」と著者が言うだけあって前巻から長い年月が経っているが、それにしても6年も間を空けるなんて空きすぎであろう。弓月光と言えば女性の艶かしい姿態を描く漫画で有名だが、それらの作品は手に取ったことがない。
 1949年生まれの作者が描くカワイイ女の子のハードボイルド漫画を、同年に生れた男が楽しむというこの情景、少々照れくささもある。

 <宮口幸治 『どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない人たち2』(新潮新書、2021年)>: ADHDやASD、LDの診断障害がつけられず、知能障害でもない「境界知能」の人たちの生きづらさを前作で知り、結構衝撃的であった。本作では簡単に言えば、「頑張らない」ではなく、「頑張れない」人たちへの支援のあり方を論じている。人びとの置かれた環境は様々だし、自身の行動も千差万別だからこれが正解だとする策はない。しかし、人にはこう接しなさいという指針の内容は深く、考えさせられるし参考になる。
 9日の朝日新聞「折々のことば」に載っていた言葉が意味深い-「貧しい言葉で豊かな明日を語るくらい、人びとをシラケさせるものはない。<天野祐吉>」。この言葉、人をネガティブにさせる言葉を単に豊かに深くせよ、と言っているのではなく、ネガティブにさせる自分自身の言葉、人を見つめる姿勢をきちんと考え、人の置かれた状況を理解した上で言葉を発せよ、と指摘していると解釈する。
 本書の最後に書かれた言葉が重い。「”あの子、表情が悪いな”と思った時は、まずは”自分の顔はどうかな”と思うようになりました」。“あの子”を自分の身近にいる人に置き換えると、自分の生き様を客観視する言葉と思え次の言葉が浮かんでくる、すなわち、「過去と他人は変えられない。変えられるのは自分と未来」。

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