2021年8月16日月曜日

沖縄をルポした本

 <藤井誠二 『沖縄アンダーグラウンド―売春街を生きた者たち』(集英社文庫、2021年)>:佐木隆三の言葉が記載されている。すなわち、「私は『性の防波堤』という言葉自体を認めたくない。何かを守るために何かを犠牲にしていいという発想自体がダメだと思いますよ。・・・(中略)・・・生存する権利として自分の性器を売る行為を、いったい誰が非難できるのでしょうか」。そう思う。
 「性の防波堤」は戦後の日本政府が作ったRAAが典型であることは容易に理解できることであるが、そこに従事した者たちには経済的困窮があったことを決して無視してはいけない。だから、往々にして道徳的側面を柱にして、売春はいけません、あなたの娘さんが同じ事をして許せますかと、ヒステリックに声を張り上げる女性たちは色々な意味でキライなのである。その女性たちは、彼女の夫や息子が、そのような場所に行ったことがない、行くことはないと言い切れるものなのであろうか。貞操観念は趣味、信仰であると言い放っていた与謝野晶子のような感情主体の立場で売春を指弾する人たちは嫌いなのである。 
 RAA=Recreation and Amusement Associationは直訳すれば「気晴らし・娯楽協会」とでもなろうが、一般的には「特殊慰安施設協会」と呼称され、両者から捉えられる意味合いは随分と異なる。物事の本質を隠して創られる用語はいつの時代にもあるものではある。因に沖縄にはRAAはなかった。本土と違ってなぜ沖縄には作られなかったのかと考えるのも歴史を知る上で意味がある。
 本書で知った事から幾つかメモしておく。
 ・全国的な「反暴力団」の狼煙は沖縄から上がっていた。
 ・1971年に公開された『モトシンカカランヌ-沖縄エロス外伝』。「モトシンカカランヌ-」は「元手がかからない仕事に従事する者」の意。この映画を見たいけれども簡単にはできないであろう。また、「十九の春」を聴くと今までとは違った印象をその歌詞に抱く。
 ・1956~57年頃は、スクラップ産業が黒砂糖を抜いて沖縄の総生産額の一位になっていた。これは戦争中の米軍による激しい砲撃があったことを意味する。
 ・本土の人間は沖縄を差別する、沖縄内部では奄美出身者を差別した。差別はいつの世も多層構造である。米国でBLMが主張され、アジア人は一部の黒人や白人から暴力を受ける。アジア人はまた他所のアジア人を差別する。江戸期、武士の下に置かれた農民、明治に入り穢多・非人の平民化に反対した先鋭はその農民だった。

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