2023年8月10日木曜日

カティンの森

 <小林文乃 『カティンの森のヤニナ 独ソ戦の闇に消えた女性飛行士』(河出書房新社、2023年)>:「カティンの森」で殺された唯一の女性は飛行士で、32歳で殺害された日は誕生日だったといわれる。彼女の11歳の年下の妹はレジスタンス組織に入り「バルミサの虐殺」で殺された、20歳。二人の父親は「ワルシャワ大蜂起」の指揮官。
 ポーランド中央部からウクライナ・ベラルーシ・バルト諸国・ロシア西部の地域にてドイツとソ連によって推計1400万人の人たちが死に追いやられ、ポーランドはWWⅡで国民約3000万人のうち600万人が殺害されたといわれている。
 ポーランド人に大人気のカップ焼きそば「OYAKATA 」(味の素のポーランド限定生産)。ポーランドは全体的に反ロシアで親日。親日の主な理由は三つあると思っている。①日露戦(1904-05年)で憎きロシアに勝利した。②1919年に独立したポーランドを逸早く承認した。③1920-22年にシベリアで孤児となった子どもたちを救出して日本経由でポーランドに送った。
 本書を読むときの視点が幾つかある。一つは勿論「カティンの森」で殺されたヤニナがどのような人生を歩んできたのか、そして殺害されなければならなかったのかというもの。二つ目にそのヤニナをポーランドの人たちはどう受け止めて来たのかということ。戦後の歴史の中で沈黙を強いた社会主義という政治体制もうかがうことができる。さらには著者の取材活動を通じて彼女自身の視線を受け止め、読み手としての視線を重ねることになる。
 「カティンの森」に限らず人間のやることはなんと愚かで残虐であり、嘘をつき、ねじ曲げた正義を振りかざし、利己的であり、欺瞞の中で自己正当化するものであろうか。「カティンの森」の残虐性だけでなく、その後のソ連の長期間にわたる虚偽・欺瞞の経緯にも憤るというか、今のプーチンのロシアにも繋がるものを感じる。ある識者はウクライナとロシアの戦争を「価値観の戦争」と指摘するが、価値観と{称することに違和感を覚える。「カティンの森」も価値観という切り口で見ていいのかというとそれは違うと思う。では何と言えばいいのだろうか、「欲望の上に重ねられる、価値観を喪失した単純化された行動」とでもいえばいいのだろうか。
 ふと自分の国に眼をむければ、先の戦争で、日本はどれほどに被害者を悲惨な状況におとしめたのか、一方ではどれほどに加害者意識があるのか、と思いを巡らす。
 ・・・以前読んだ『カティンの森』(みすず書房、2010年)と『ケンブリッジ版世界各国史 ポーランドの歴史 』(創土社、2007年)を何度か開きながら読み続けた。

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