相互に何かプレゼントしようかとも口にするが、どちらも格別欲しいものはなく-年齢を重ねれば食欲も物欲も薄れるばかりなので-、特に記念日を祝うとかのイベントもなく過ごした。外に出ることも尠くなっている昨今なれば、せいぜい部屋着でも新調しようかと久しぶりにショッピングセンターに出かけただけだった。昨日けっこう飲んだので酒精を口にすることもなかった。
<真保裕一 『英雄』(朝日新聞出版、2022年)>:植松英美(えみ)は実の父親を全く知らなかった。山藤ホールディングス創業者で元会長であるその父南郷英雄が拳銃で射殺される。英美の母は7年前に病死しており、最後まで実父のことは全く語らずに逝ってしまった。英美とは母を異にする南郷の長男・次男・長女、それに長女の夫たちとの遺産を巡り駆け引きが始まる。英美は父のことを知りたく、弁護士深尾女史や伯母/春子や異父の弟/正貴・妹瑞希のサポートを受けながら調査を進める。
南郷英雄が生きてきた時代と現在を行き来して最終的には殺人犯にたどり着く。英雄が南郷家に婿入りする前の苗字は吉藤であり、創業した会社の名を何故に山藤としたのか、山は何に由来するのか、それがキーとなる。
戦争直後の英雄の烈しい人生、運送業から事業を拡大する際の厳しい経営と人的関係、それらが現代と交錯しながら展開される。①殺人犯を明らかにするということが物語の大筋の背景にあるが、②主軸は英雄の戦後からの生涯を炙り出すことにあり、③英美が父を知りたいという動機はその間接的手段としての位置づけにある。面白くは読んだのが、この三つの構造が小説の焦点を甘くしている。
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