2023年1月23日月曜日

直木賞、『プリンシパル』

 自分が読んで賞賛した小説がその後に話題を呼んだり、また名のある賞を受賞すると嬉しい。古い記憶は『海峡を越えたホームラン』(関川夏央)で、海老名市と藤沢市の市境付近の小さな本屋で購入したことを覚えている。次に記憶にあるのは『コリアン世界の旅』(野村進)、『神無き月十番目の夜』(飯嶋和一)。もちろん評価が高いからこそ出版されたのであろうが、世の中で大きな話題になっていない本を偶然手に取って、読んで良い本だなぁと思い、その後に話題になると何かしら自分の中で得意になってしまう。
 今回は直木賞受賞が決まった『しろがねの葉』(千早茜)。鉱山を舞台にした小説では頂点に位置すると思う。

 <長浦京 『プリンシパル』(新潮社、2022年)>:ヤクザの組長の娘に産まれた綾女が敗戦後にそのトップに担ぎ上げられ、やがて商事会社の衣装を冠った組の存在を守り発展させていく。その過程で多くの冷血な殺人を行っていく犯罪・暴力小説。敗戦後の総理大臣やGHQ、芸能界などの虚実を交え、ヤクザ社会の忠信と信頼、裏切りと報復などを描く。ヒロインは東京高等女子師範を出て教師を務めていたが、物語の中ではヒロポン中毒となっている。親や夫を殺されたヤクザやその家族の復讐劇が最後まで続く。
  バイオレンスクライム小説、ピカレスク・ロマンと本の帯にあるが、最初から最後まで感じたのはその生き様の安っぽさで、それは基本的に底の浅い暴力小説を好きになれないところから発する。この小説に何が不足しているのだろうと考えたが、それは多分に敗戦後の市井が活写させていないせいであろう。当時の物理的存在(建造物や車など)政治体制などの歴史用語は使われているが、それらが上辺だけの道具表現となっているからであろう。
 読んでいて時折フォントが変わるのに違和感を抱いた。会話で使い分けているのかと思ったが明確な判別を受け取れず、煩わしい。

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