2017年3月9日木曜日

ミステリー1冊

 瑞穂の國記念小學院を巡るニュース、ワイドショー、週刊誌などが連日騒々しい。ついついテレビを見てしまうのだが、さすがに何回か繰り返される報道を見てはバカバカしくなりチャンネルを変える。国有地の売却に関する不透明さ、予算委員会の政府・官僚の不誠実な強弁、厚顔無恥さ、等々やりとりは言葉遊びとも思える。面倒な人が非常識な言動を発し、そこにまた面倒な人たちが奇妙な言説を並べる。加計学園も新たに出てきて、混迷は深まるばかり。どうなることやら、まだまだ笑劇は続き、嗤って観劇することになるのであろう。
 事実は小説より奇なりであり、現実には小説を陵いで魑魅魍魎が跋扈している。

 <竹本健治 『涙香迷宮』(講談社、2016年)>:竹本健治の小説は20代の頃に2冊読んだだけである。定期購読していた『幻影城』で『匣の中の失楽』を知って読み、続けてへぼ将棋に凝っていた頃に『将棋殺人事件』を読んだ。読書感想をメモし始める1982年以前の事で、感想などを記したものはない。3冊目となるこの『涙香迷宮』は、「このミス2017年版」の国内編で第1位となっていることを覚えていて書店で衝動買いした。
 黒岩涙香を真ん中に立て、その周囲にいろは歌、連珠などの暗号を複雑に敷き詰める。言葉に使われる文字を重複されることなく全て使用し、意味のある文章を作ることを完全パングラムというとのことで、この本には50の完全パングラムが出てくる。しかもその全てが繋がっており、これを創り出した作者にはただ敬服するばかりである。凄いとしか言いようがない。暗号ミステリーではあるが、なかで発生する殺人はこの高度な言葉遊びを披露するための道具立てでしかない。殺人を解き明かすことを主眼にしたミステリーではなく、暗号を複雑に構成し、それを殺人に引っかけて暗号を解き明かすものである。読むのに少々疲れた。正直なところトリックが複雑に絡められたいわゆる本格探偵小説とか、暗号パズルのミステリーには自分は入り込めない。
 最後に問題提起される涙香と幸徳秋水の謎は解き明かされないままに終わる。なんとも隔靴掻痒のようなもどかしさが残るが、自分なりの答を持つしかない。もちろん、それが正答なのかどうかは分からない。

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