2019年6月4日火曜日

ミステリー1冊

 <葉真中顕 『凍てつく太陽』(幻冬舎、2018年)>:第21回大藪春彦賞受賞、第72回日本推理作家協会賞受賞。物語の現在は昭和19年から始まり、昭和21年で頁が閉じられる。舞台の地は、室蘭・札幌・網走監獄、過去と現在にアイヌの畔木(くろき)村、そして、飢餓から撤退までのガダルカナル島。人物は、大和人の警察刑事と特高刑事と不正義を働く軍人、土人と蔑まされるアイヌ人あるいはその血をひく特高刑事、タコ部屋で抑圧される労働者と大和人に追従する鮮人たち。太陽とは暴走する研究者と軍人が造ろうとするウラン爆弾。
 面白くはあるのだが、物足りない。言葉を悪く使えば、所詮日本歴史の暗部を道具立てとしたエンターテイメント小説であり、その暗部を鋭くつき深部にはいることはない。しかし、エンディングで近い将来を語り合う人たちは土人であり鮮人であり、大和人はいない。そこに著者のスタンスを遠回しに柔らかく表現していると捉えた。

 本書の出版元でもある幻冬舎の社長が「特定の作家」の実売部数をツイッター上で公表し、作家や評論家から批判があがったことはつい最近のこと。著者は日本推理作家協会賞贈呈式にて見城社長を批判している。ついでに書くと「特定の作家」が批判を繰り返し、現在も書店で平積みになっている『日本国紀』については読む気もしない。
 Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2019年6/4号にて「特集:百田尚樹現象」が掲載されている。また、朝日新聞2019年/5月30日「論壇時評」「超監視社会 承認を求め、見つける「敵」」にて津田大介氏も彼を論じている。論壇で問題視されるほどにイヤーな世の中になっている。

0 件のコメント: