2020年9月21日月曜日

戦前に関するテキスト、そして息抜き

 <田中雄一 『ノモンハン 責任なき戦い』(講談社現代新書、2019年)>:NHKスペシャル「ノモンハン 責任なき戦い」のディレクターの一人が著者。「組織の上層部は責任をとることなく、そのしわ寄せが下へ下へと向かっていく構図は、いまも変わらぬ日本型組織のありようのように思えてならない」(あとがき)。まったく同感。 
 辻は選挙で勝って衆議院議員を4期、参議院議員を1期つとめ、一方では世論の反発は強かった。これって、長きにわたって政権を握った首相ではあるが、一方ではモリカケやサクラで非難される構図に相似している。要は、称える側と反発する側の対立も選挙というシステムで糢糊と化してしまうことであり、今後も改められることはないであろう。
 ノモンハンは「失敗の序曲」というけれど、その序曲は江戸末期・明治維新時より構築されてきたと思う。恰も指揮者が無能力で思いつきのままに指揮棒を振るものだから、オーケストラのメンバーは制御されないままにメロディーを奏ではじめ、音楽にならない曲が響き渡り「失敗の序曲」と化してしまう。序曲の次の楽章では「失敗」の主旋律が拡大膨張して鳴り響き、最後には葬送の楽章へと繋がっていく。そして通奏低音は現在も続いている。
 
<猪瀬直樹 『昭和16年夏の敗戦 新版』(中公文庫、2020年)>:かつて「総力戦研究所」なる研究機関があり、そこにはthe Best and the Brightestなる実務経験10年以上の30代の36名が集められ、昭和16年に摸擬内閣は集めた各種データに基づいて次の結論を出した。すなわち、「12月中旬、奇襲作戦を敢行し、成功しても緒戦の勝利は見込まれるが、しかし、物量において劣勢な日本の勝機はない。戦争は長期戦になり、終局ソ連参戦を迎え、日本は敗れる。だから日米開戦はなんとしても避けねばならない」。真珠湾攻撃と原爆投下を除いてはその後の日本敗戦までの戦況を的確に予測した。研究生の発表を聴いて東條陸相(当時)は「あくまで机上の演習で実際の戦争というものは君たちの考えているようなものではない。日露戦争でも勝てるとは思わなかった。しかし勝った。戦というものは、計画通りにいかない。意外裡なことが勝利につながっていく。君たちの考えはその意外裡の要素というものを考慮したものではない」というような内容で講評している。また次のようなやりとりもあった。
 「戦力が十分じゃないのは承知しているが、その気になって準備している場合にはちがう。相手はたとえ地力があっても不意打ちをくらうとやられる。織田信長は今川義元に勝ったではないか。物量が大きい方が必ずしも勝つとは限らないことは、幾多の歴史が教えているよ。なんといってもこちらには大和魂がある」
 「大和魂こそアメリカにはないものでわが国最大の資源だ」
 「日本には大和魂があるが、アメリカにもヤンキー魂があります。一方だけ算定して他方を無視するのはまちがいです」
 「だまれッ」
 呆れるばかりである。非科学的な意志決定機関が上にいては、国民はせいぜい竹槍を持ってB29を見上げるしかなかった。

 <バーカード・ポルスター 『Q.E.D. 知的でエレガントな数学的証明』(創元社/アルケミスト双書、2012年)>:日本酒を飲み続けた翌日に飲むハイボールやジンといったような(?)、しばしの息抜き、頭のリフレッシュと言ったところヵ。生身のヒトの歴史を読み続けたところで脇道にそれ、本書で数学的証明をトレースすると、何というのだろうか、些末なことはさておいて人智の及ばぬ自然の摂理といった世界、神の領域に触れるような清澄なリフレッシュ感を覚える。楽しい。
 証明終わり=Q.E.DをQueen Elizabeth Diedと言い換えて覚えるとよい、と教えてくれたのは高校の数学教師千葉先生だった。

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