2017年4月18日火曜日

文庫本一冊

 <岩城けい 『さようならオレンジ』(ちくま文庫、2015年-初刊2013年)>:在豪の女性作家が描く、豪州に流れてきたアフリカ難民女性サリマが再生する物語。サリマはアフリカ母語の読み書きもままならず、ナイフでもって精肉する仕事をして、男児二人を養う。英語を学び始めて日本人女性やイタリア出身の年配の女性と知り合い、自らの無学を感じ取りながら少しずつ前進する。子供の学校で拙いながらも作文を発表し、自らの生い立ちとこれまで生きてきた経緯を語る。下の子はそれを目の前で聴いてから母親サリマへの接し方が変わる。過酷な精肉作業を嫌って都会に逃げていった夫が子供を連れ返しに来るが下の子は列車に乗らなかった。仕事場でチーフになり、日本人女性にはダイガクに行くべきだと話し、英語教師からのすすめで地元紙から全国紙にも目を通すようになり、免許取り立てのかつての監督に誘われてドライブに行き、自分で立ち上がることを決心したサリマは小さくなる夕陽に「さようなら、おひさま」といい、これからも朝に出会い夕べに別れることを繰り返すその「おひさま」に、生きること、永遠の願い、祈り、希望を感じ取る。
 サリマの成長の物語と並行して、日本人の女性が恩師に宛てる手紙の中で自らの生活と思いを語る。
 豪州の片田舎、日本からやってきた女性(娘を亡くしてしまう)、イタリアからやってきて子どもたちが離れてしまっている女性、そしてアフリカ難民の女性。それぞれの女性が生まれた地理は広いけれど、描かれる女性達が抱える重いテーマが基底にあり、それらが柔らかく鋭く展開し、前に進むことで閉じる。
 異国の地の、多様な人々を描き出す日本人の小説であることに驚きもした。良質な小説であるが、全体的には物語が予定調和的に進んできて、これからの私の人生は明るい未来、私の周りの人たちはみないい人たち、のようになってくるのには、ああ、よく目にする感動の物語か、というつまらなさも感じた。

0 件のコメント: