2019年8月13日火曜日

両の手で 頬を包める優しさに 「お」と「こ」はそっと「まん」を守れり

 8月末から大学ラグビー・シーズンが始る。そろそろと思い、『J SPORTS オンデマンド』ラグビーパックを購入。シーズン終了まで継続し、今季は多分自宅での観戦だけになろう。年齢を重ねてくると、ラグビー会場まで足を運ぶ時間も節約したくなってきている。

 <松本修 『全国マン・チン分布考』(インターナショナル新書、2018年)>:女陰語・男根語の語源を探る。真摯でかつ論理的でありとても面白かった。言語学や語彙史をよく知ってはいないのだが、アンケートで調べ上げた言葉の分布を明らかにし、中心(京都)から地方への広がりを歴史的文献や辞書などから明らかにすることは科学的であり、説得性がある。特に、第7章「「マラ」と南方熊楠」にて「マラ」の漢訳梵語魔羅説を明快に否定し、その根拠も明示している。各辞書の根拠の曖昧さを論破し、併せて辞書編纂者を強く批判している。その論理性や既存語源説の不備をも指摘しているのは、良質のミステリーを読んでいるにも似た爽快さを感じた。
 それまでの著作本で得た印税収入をすべて研究に費やし、また、豊富な人脈もあって、深さ(歴史)と広がり(地理)を増す。日常使うことがなく、学術的には誰も研究せず、ある種の嘲笑さえ向けられるへその下の局部名称。著者はそれらにこだわるのは、人間生活への愛おしさを抱いているからに違いない。
 俵万智さんが本書(と著者)に寄せた短歌が秀逸。

  両の手で 頬を包める優しさに 「お」と「こ」はそっと「まん」を守れり

 分布図を眺めていて、かつて幼い頃に住んでいた秋田県での「マン・チン」呼称名を懐かしく思いだし、小学2年で福島県奥会津に移転したときにはそれまでの言葉とは異なることを知った。もちろん「チン・マン」以外の言葉についても同じで、東京にでてきたときも富山に職を得たときも新しい言葉を知ってきた。方言は楽しい。
 普段口にしない言葉であるからこそ、本書で展開される「チン・マン」語彙に人間社会の豊かさが感じられる。
 本書で抵抗を覚える点は以下;
①友人・知人等の人脈の広さには感心するのだが、私的な思いを語りすぎてうっとうしさを感じる。研究書ならば、まして本書の内容は人々の生活に密着するのであり、だからこそ私的な部分は簡素にするか無機的な記述するほうが好ましい。
②上記にも通じるのであるが、ドラマ的感動の場に著者が漬っていて、それは学術的内容とは無関係であろう。

0 件のコメント: