2019年7月12日金曜日

きだみのる、赤松利市

 <きだみのる 『気違い部落周游紀行』(冨山房百科文庫、1981年、初刊1948年)>:”きだみのる”の名は中学か高校のときにテレビで知ったような気がするが、もしかしたら、三好京三が1975年に『子育てごっこ』で直木賞を受賞したとき、その養女がきだみのるの子で、学校に通わずにもいて話題になったため、そのときの記憶がとどまっているのかもしれない。もちろん本書をはじめ、「気違いシリーズ」も知っていたが、昨年に新聞か雑誌で”きだ”の名が出ていて、今になってはじめて手に取って見た。気違いは無論精神疾患のことを指すわけでもなく、部落も単に集落を意味している。
 内容的には、今の人間社会で見聞きし、体験する人間模様や世間の本質は以前より変わらずにあるということ、敗戦前後の村にもあったということである。

 <赤松利市 『鯖』(徳間書店、2018年)>:漁師たち、魚(鯖ヘシコ)で中国展開を図る中華系ビジネス・ウーマン、割烹を経営する女性、日本海の孤島とそこを望む陸地を舞台にして繰り広げられるノワール。貧困と暴力と現実からの脱出、酒と鯖、歪んだ劣等感をもって向けられる他人と自分。楽しめた。作者は帰国子女で英語もでき、サラリーマンから経営者、土木作業員、無職で住所不定(今はネットカフェからは出ているらしい)、等々の常人では想像できない人生を積み重ねた人らしい。第1回大藪春彦賞(2017年)を『藻屑蟹』で受賞した1956年生まれの新人。
 本書のパターンの小説は何度も読むと多分あきてくる。あと1冊、デビュー作の『藻屑蟹』を読んでみようか。

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