2019年10月17日木曜日

酔っ払いの本と鍛冶屋の本

 <大竹聡 『酔っぱらいに贈る言葉』(ちくま文庫、2019年)>:帯に書かれているように、この文庫本は酒飲みの酔っ払いたちに向けられたのではなく、「愛すべき酒呑まれたちへ」贈る言葉を詰めたものである。家人あるいは友人たちに酒に強いと言われる(た)己ではあるが、本書に登場する酒好きな人たちに比べれば「ひよっこ」のようなものである。
 「この店のビールはうまいから帰りに六本包んでくれ」(内田百閒)などと粋な台詞を口にした覚えもなく、「恋人は一瓶のワインであり、女房はワインの瓶である」(ボードレール)と人生を振り返れるほどにワインはまだ味わえない-日本酒とウィスキーは楽しめるがワインはアルコール入り蒲萄ジュースのようにしか感じ取れずにいる。
 かつて、酒の飲めない部下の女性に、「人の世にたのしみ多し然れども酒なしにしてなにのたのしみ」(若山牧水)の如きことを口に出したら、彼女からは「酒の苦しみを知らなくて幸いです」と返された。
 年齢も重なり、アルツハイマーにはなりたくないし、また「アル中ハイマー」にもなりたくない。
 本書にあったレシピ、フライパンで強火で手早く焼いた葱に醤油と七味唐辛子を加える、これが美味そう。油を使わずに葱を焼き(ガスで焼くのは駄目)、塩をかけてつまむのは以前より好物であり、葱のレパートリーが一品ふえた。そして、本書での「本格派レモンサワー」にはまっている-400ccのグラスにキンミヤ焼酎を90cc入れ、氷をグラスいっぱいに入れ、レモンを加えて炭酸を注いでステアせずに飲む。すべてを冷やしておいてこれを作ると実にうまい。

 <遠藤ケイ 『鉄に聴け 鍛冶屋列伝』(ちくま文庫、2019年)>:書名に惹かれて購入。まえがきの「僕」を多用する文章に馴染めない気分となり、その後の鍛冶作業にまつわる描写は、専門技術的であり、活字を追う気持ちが萎え、さらには手書きのスケッチが何とも見にくい(多分『ナイフマガジン』に連載されていたときはカラーであったと思う)。一体何を期待してこの本を開こうとしたのか自問してみると、鍛冶職人の生活史や人生観などに触れたかったのだが、それには殆ど触れることなく頁がすすみ、描かれるのは鍛冶職人の鍛冶工程が多く、結局そこには興味が湧かず、駈け足で活字を眺めて終えてしまった。

0 件のコメント: