2019年10月21日月曜日

日本酒の近現代史

 <鈴木芳行 『日本酒の近現代史 酒造地の誕生』(吉川弘文館、2015年)>:世界各地にその地特有の酒があり、「すぐれた酒を持つ国民は進んだ文化の持ち主である」(坂口勤一郎『日本の酒』)のであり、日本酒の歴史は文明の歴史であり、もちろん誇るべき文化である。伏見・灘・西条・・・・と銘酒の産地はあるが、個人的には、東北で生まれ育ったせいか、秋田や青森、山形、会津の酒にはやはり手が先に伸びる。
 本書の著者は、国税庁税務大学校税務情報センター租税資料室に勤務した人であり、税金に裏付けられた日本酒の歴史は詳しい。なれど、酒を味わい、また酒に溺れて身を滅ぼし、酒を友に旅をして人生を送る、といったような側面で酒の歴史や人びとの暮らしに触れようとするには、例えば小説や個人史などのような本を開かなければならない。
 日本の酒が「日本酒」と呼称されるようになるのは幕末・維新の頃であり、「日本酒」と呼ばれることが一般的に広く行き渡るようになるのは前の東京オリンピックの頃である。「日本」が意識されるのは海外を意識する時期と符合し、己を知り意識するのは常に相対的なものでしかないということなのであろう。

0 件のコメント: