2016年3月30日水曜日

ミステリー1冊

 ベッドで眠れるのはせいぜい5~6時間くらいであり、22時くらいに寝ると結局3時か4時に目を覚ましてしまう。今朝もそうだったので、昨日まで読みかけていた小説を3時頃から読み続け、6時前には読み終えた。

 <米澤穂信 『王とサーカス』(東京創元社、2015年)>:ネパール王族殺人事件が発生した2001年のカトマンズを舞台にし、2015年度の『このミス』や『週刊文春』で1位となったミステリー。
カラクリを仕掛け、伏線を張り、謎解きをメインとするミステリーはいわばジグソーパズルのピースの嵌め込みに工夫を凝らすのであるが、この『王とサーカス』はまずパーツを嵌め込んでいくプロセスがユニークである。カトマンズに旅行の取材で来ている主人公太刀洗万智が王族の殺人事件に遭遇し、必然的にその取材に取りかかる。主人公が関わる人物はネパール人、インド人、アメリカ人に日本人。ネパール人はホテル管理人である女性、その日暮らしの少年たち、軍人、警察官たちであり、軍人が殺される。いわばネパール/カトマンズというテーブルに、これらの人物がパーツとして拡げられ、読む側はそのピースがどう嵌め込まれていくのかを楽しみ、そして最後に完成される絵に感嘆する。陳腐な殺人動機で終わらせておらず、ネパールの子ども達の状況を後背として描かれる少年サガルの悲しみと憤り、ゴビンの学校への志向性などがミステリーを重厚にし、主人公の真摯でかつ誠実な姿勢は共感を誘う。良質の、それもかなり上等なミステリーである。
 傑作を読むと言葉の奥深さ、文章の巧さ、豊富な語彙に敬服することが多いが、この本にもそう感じた。語彙を増やすには沢山の本を読むしかないのだろうか。自分の語彙の少なさを何とかしたいと思っているのだが、「時すでに遅し」か。