2016年9月22日木曜日

樋口有介さんの新刊

 <樋口有介 『ぼくはまだ、横浜でキスをしない』(角川春樹事務所、2016年)>:新聞の広告で見てすぐに購入。場所は横浜-ヨコハマという響きはイイもんだ-、物語の中心は17歳の県立高校生のアキオ(桐布明生)、アキオと小学生の時に同級生であってフェリスの女子高生メイ(村崎明)、そしてミケ(雌猫)。脇役としては事件調査に加わるのが姉(かもしれない)警部補/能代早葉子。あとは、10年前の事件当事者であるアキオの父親で変態官能小説家/遠野銀次郎。母親、古書店の詩帆などがアキオの世界を形作る。ミケは成仏できない女性でアキオとだけは会話ができる。メイは高いIQで資産家の娘でアキオと再会してアキオと行動する。
 かつての盗撮痴漢事件を起こした父親は警察に嵌められたのであり、その冤罪の汚名を雪ぐべく調査するなかでミケは誰なのかも明らかにしていく。最初にミケが若い女性で・・と設定を知ったときは途端にこの小説への興味が薄れてきたのであるが、そこはそれ、アキオとメイ、そして親父などとの軽妙な会話、アキオの独り言を読み続けると樋口ワールドに入り込んで楽しめる。
 いま66歳の樋口さんが17歳を主人公にした所謂青春ミステリーを描き、それを67歳のオレが楽しんでいる。成熟(老成)した大人という視点をもてば作家の妄想のなかで読者のオレが妄想を楽しんでいるという構図でもある。でも樋口さんの全小説を読んでいるオレにとってはどんなに年齢を重ねても樋口さんにはセイシュンミステリーを書き続けて欲しいのである。
 この本の装丁は面白いのであるが、メイを模した女性の顔が小説の中のメイとはかけ離れている。顔を出さずに後ろ姿だけがいい。後ろ姿で妄想は膨らみ、どんなに美形で可愛くても顔を見たときには現実に戻ってしまい、大体はその現実の辛さ-美形の場合はこちらの、美形でない場合はあちらの辛さ-を想ってしまうものだから。

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