2020年5月25日月曜日

ベストセラー小説一冊

 土曜日(23日)、前立腺炎の再診で今回はこれで御仕舞い。踵の痛みもなくなったし、まずは一区切りがついた。

 <凪良ゆう 『流浪の月』(東京創元社、2020年)>:立ち寄った書店にたくさん平積みになっているし、新聞での宣伝も目立つし、ついふらふらとベストセラーの誘惑に負けて手に取りレジに向かってしまった。
 主な登場人物は、父親が死に母親が出奔し伯母の家に預けられた更紗、ロリコン(実は肉体的成長に障害があった)佐伯文、母が男と旅行してその間は更紗に預けられる梨花、DV男の亮、文が手を出してこないことに悩む谷。物語のバックにいるのは、マニュアル通りに育てようとする文の母、世間的同調の中に押さえ込もうとする更紗の小学校の担任と伯母。そしてスキャンダラスな物語に寄生する世間。
 伯母の長男中学生の猥褻行為もあって、更紗は避難的に文のところに入り込み、それが幼児誘拐事件になってしまう。そして事実を探らずに短絡的に間違った方向に結論を見出す警察、面白おかしく勝手な解釈で文を犯罪者とし更紗を被害者として記事を流してしまうマスコミ、そのマスコミに依存して執拗に誹謗中傷を垂れ流す世間という名の人びと。
 愛とか恋とかでなく、自分の居場所を互いに認める文・更紗そして梨花。世の中がどう中傷しようが誹謗しようが、それに抗うのではなく、馬耳東風的に流してしまって世間の喧噪から離れてどこかに居場所を見つける。大上段に愛とか恋とかを求めるのではなく、全ての生活様式を、息づかいを相互に受け容れる優しさというのか、それが文・更紗・梨花のいる場所である。世間と相容れない主人公たちの唯一安心できる世界がそれなのであろう。
 ミステリーっぽく展開する物語で引き込まれて読んだが、何か物足りない。それは、子を棄てる(子から逃げる)母親の描写がなく、また、不条理な世間に対し主体的に抗わない、怒らない、主人公たちの姿勢にある。彼女・彼が求めるのは、世間に抗うのではなく、そんな世間は打棄っておき、あるいは逃げてしまい、自分たちだけの小世界を守ることなのである。20~30代の男女のメルヘン的要素の入った現実逃避行物語。

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