奈津と雪江のベッドシーンはまだしも、繰り返される酒と煙草の描写には辟易する。いろいろな仕掛は面白いのであるが、最後の原田と奈美が対峙するシーはつまらない。評者の新井素子は様式美として楽しいというが、テレビのいろいろなミステリー・ドラマのラストで繰り返される謎とき・動機説明シーンの様であり面白くない。物語の軸を奈美においているが、章ごとに人物を入れ替えて視点を変えるともしかしたら重厚な様相をもたらしたのではないかと思った。
女性を軸として活躍させること、奈美と雪江のベッドシーンが何箇所かあること、などから著者は女性なのかとも思っていたが、読後にwebで確認したら「女性を主人公にした作品が好き。女戦士フェチと言いましょうか…。強い女性、強くあろうとする女性を書きたかった」とする受賞時58歳の男性であった。
<辻真先 『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(東京創元社、2020年)>:本書は、「ミステリーが読みたい! 2021年版」、「週刊文春ミステリーベスト10 2020」、「このミステリーがすごい! 2021年版」のそれぞれで1位を得て3冠を達成した。著者は1932年生まれ御年88歳。とんでもない数のアニメの脚本、ミステリーを世に送り出し各種の賞の受賞も多い。が、読者となるのは本作が初めて。
2回に分けて読んで、出だしは前置きが長くいつになったら本筋のミステリーに入るのかと少しジリジリしたが、読み終えてみればその思いも消え失せてしまい、情景・時代描写の滑らかさ、構成の巧みさ、人物たちの活写には「素晴らしい」としか言えなくなった。「たかが殺人じゃないか」に含まれる時代性、物語最後の5行が始まりのそれであるのには感動すら覚える。
殺人のトリック自体にはさほど興味はなく、小説構成に上手さを感じた。また、味わったことのない高校共学に羨望を抱いたかもしれない。自分が昭和24年生まれであるからこそ余計に楽しめたのであろう。同時代性ということでは、刊行予定にある、昭和36年を舞台にした作品も期待する。昭和12年を舞台にした前作も読んでみようか。
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