新装版となった文庫本には樋口さんの「新装版あとがき」があり、この作品を書いていた頃の身辺を回顧している。暮しのなかで大変な時期だったことも垣間見える。
この文庫本の帯には本年11月に沖縄を舞台にした新作書き下ろしが刊行予定とされており、また「このミス」にも樋口さん自身が『私立探偵には不幸な街(仮題)』として出版予定であることを書いている。内容は「沖縄を舞台にした青春ミステリーに落ち着きました」とある。この新作、かつ最終作となる本は果して出版されるのであろうか。期待したいのであるが中央公論新社のHPにそれらしき記事はない。「このミス」には「すっかり体調をくずして」とあるので亡くなったのはそのことにも関係あったのだろうか。兎に角、全作を読んでいて、樋口ワールドが好きだったのでとても残念。1歳年下だったことを思うと我が身の、どれだけ残っているか判らない人生をふと思ってしまう。
以下は引用;
・「人間なんざ一人で生きるのは、誰だってみんな淋しいもんだがね。だけんど逆に、その淋しさが我慢できりゃあ、ほかのことはなんでも我慢できる。貧乏も病気も歳をとることも死んでいくことも、生きてる淋しささえ我慢できりゃあ、人間てえのは、はあ何でも我慢できるべえよ」
・「死ぬまでの時間が長えか短けえか、そんななあ頭のなかのカラクリだい。飯を食って仕事をして酒でも飲んで、ついでがあったら女房でももらって子供をつくって、そうやってじっとして生きてりゃあ、自然にお迎えが来らいね」
・「何もせずに、ただ淡々と日常を消化して、そうやって死ぬのを待つ。人生の極意だと思いませんか」
・「マスター、一杯飲んだら、帰るんじゃなかったの」「麻美さんも皮肉はやめてくれよ。節操なく自堕落に耄碌して生きることだけが、年寄りの特権なんだから」
樋口さんの死、寂しい。
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