2018年7月10日火曜日

雑感と文庫一冊

 91歳になる考古学者の大塚初重氏の語りが朝日新聞に連載されていた。最終回の記事が気になった。それは、亡くなった後のことも考えて蔵書の寄贈先を探していたが、20kg入りの段ボール箱で600近くもあり、一括では国内に引き受けるところがなくて、北京大学に寄贈するとのこと。蔵書の内容を推し量ることはできないが、考古学関連あるいは歴史書の書籍が中心となっているであろう。違和感を覚えたのはこれらの書籍を引き取ることができないという日本国内の現実。大量の書籍を引き受ければその保管施設、書籍の分類整理など多くの課題はあるだろうが、その蔵書の価値すべてを棄てて他国に譲ってしまうという、何だろう、狭隘な日本文化を思ってしまう。
 氏が心に刻んできた言葉は、「出る杭は打たれる。しかし、出ない杭は朽ちる」とのこと。自分は、「出る杭は打たれる。出ない杭は腐る」とずっと頭に入れてきた。腐った(朽ちた)杭は表に出ないので、人には知られることもなく、人はちゃんと杭の役目を果たしていると思い込む。また、出ない杭は、表に出ないから腐っていることを教えられることもなく、また自覚することすら少ない。腐った杭が腐っていることを知るのは、杭が支えるべきものが崩れたときである。崩壊するシステム・構造の多くは、杭が腐っていることに帰因するのではなかろうか。いまの政治や社会情勢は、杭が腐りかけているような気がするし、そして出る杭を打ち続けて腐らせようとしているような気もする。

 <鯨統一郎 『哲学探偵』(光文社文庫、2011年、初刊2008年)>:著者18冊目。なれど、過去のメモを振り返れば、『邪馬台国はどこですか』を超える作品に当たらないと書いてある。ならば読まなければいいのにと自問するが、気軽に活字に触れるには適当な小説だイージーに手に取ってしまう。そして今回も同じで、やはり著者の代表作は「邪馬台国・・・」でそれに代わるものはないとの感を強くする。「邪馬台国・・・」の次には桜川東子女史がバーのカウンターで春霞などの日本酒を飲んで謎を解く小説である。よほど話題にならない限り、著者のミステリーはこれでお終い。

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