2019年3月19日火曜日

ミステリー2冊

 <深町秋生 『探偵は女手ひとつ―シングルマザー探偵の事件日誌』(光文社文庫、2016年、初出2012-16年)>:舞台の中心は山形市。あとは東根や米沢、仙台は国分町がちょいと出てくる。カギ括弧で括られる会話はすべて山形弁で、警察署員もヤクザも元ヤンキーも鋭利な棘がほんわかと柔らかい真綿で包まれている。厳しい冬のシーンや美味しそうな東根のさくらんぼも描かれて山形色満載。楽しめた。この6編、テレビでのミステリー・シリーズに相応しい-是非とも字幕付きで。その際、主人公は30代後半なので山形県出身であっても、間違ってもあき竹城や渡辺えりではなく、迫力には欠けるけれど橋本マナミならギリギリ許容範囲か。

 <横山秀夫 『ノースライト』(新潮社、2019年)>:著者の本は6年ぶり11冊目。物語を思い出すキーワードは、ダム設計/渡り/ブルーノ・タウト/椅子/親子/夫婦/贖罪、そしてノースライト-北からの光を取り入れる家。読み始めてから主人公の建築に関する思いが長く綴られる。バブルが弾けて設計事務所を退所し、拾われた小さな事務所で「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」と発注されて建てた信濃追分のY邸には誰も住んでいない。そこで見つけた椅子がブルーノ・タウトに繋がり、そこからY邸設計発注者の探索がはじまる。最期の1/3で物語は急速に進み、人が抱える贖罪・悔恨・情愛が、それこそ朝のノースライトに柔らかく暖かく包まれる。
 前半の建築に関する記述に少々倦いたりもしたが、頁を捲る手は休まずにこの長篇をほぼ一気読みした。読書の楽しみ、人に向ける著者の優しい視線が感じられた。

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